何が問われているのだろう?~「テロ等準備罪」(2)

1 おはようございます。

 報道によれば,19日夜,大阪地検特捜部は,森友学園の事務所及び理事長の自宅などの関係箇所の捜索を実施したという。

 森友学園を巡っては,① 「塚本幼稚園」の専任職員の数,要支援児童の数について,虚偽の申請をして大阪府から補助金を不正に受給したという疑惑② 「瑞穂の國記念小学院」の校舎建設に係る工事費について,関西エアポート・大阪府に提出した同日付けの工事請負契約書の額を大幅に上回る額の工事請負契約書を国土交通省に提出し補助金を不正に受給したという疑惑③ 近畿財務省から大阪府豊中市の「瑞穂の國記念小学院」の建設用地を購入するに当たりゴミ撤去費用を要するとの理由で不当に安く売却を受けたという疑惑などが取り沙汰されているようだ。

 設計会社・施工業者など利害の対立する関係者が多く,追加工事の見込みなどという弁解が想定されうる,②の疑惑,財務省サイドが売却の経緯を記録した書類は存在していないと答弁している,③の疑惑などに比べれば,①の疑惑は,証拠が得られやすい「スジの良い事件」にみえる。

 多くの隘路があることは当然想定されるし,世論の興味が高く神経を使う事案であろうが,早朝にまでわたる捜索によって得られた多くの証拠物が,一連の事案を解明するための,鍵を握るものとなるか否か,今後の展開が注目されるところです。
 
 さて,本日の話題です。 
 
2 何故,「テロ等準備罪」が設けられることになったのか?

 前回から,「テロ等準備罪」という罰則を定める「組織的犯罪処罰法改正案」が提出されるようになった経緯を踏まえ,実際にこの法案の条文をみて,この法案が巷間いわれているように危険なものなのか考えてみることにし,法案審議の過程で感じたことを少し書いてみようとしているところでした(新規立法>「何が問われているのだろう?~「テロ等準備罪」(1)」(http://jeans.at.webry.info/201706/article_5.html)参照)。

 そもそも,「テロ等準備罪」は,「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(TOC条約)が締約国に整備を求めている罰則であるとされています。

 この条約は,平成6年11月,イタリアのナポリで開催された国際組織犯罪に関する世界閣僚級会議において,「ナポリ政治宣言及び世界行動計画」が採択され,国際的な組織犯罪に対処するため,国際組織犯罪防止条約の締結を検討することが提案されたことを契機とし,その締結に向けた国際交渉が始められたものです。

 その後,平成10年12月,国連総会は,国際組織犯罪防止条約及びこれに関連する議定書の内容を検討・起草するための委員会を設置し,その検討・起草の作業を進めた末,平成12年11月,国連総会において,「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(TOC条約)が採択され,同年12月,イタリアのパレルモにおいて,我が国の政府を含めた多くの国は,この条約に署名しました。

 これを受け,政府は,平成15年3月この条約の締結の承認を求める議案とともに,この条約を実施するために整備を求められている国内法の罰則として「共謀罪」を定めるため,「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」を提出しました。

 そのうち,この条約の締結の承認を求める議案については可決されましたが,「共謀罪」を定めるための「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」については,激しく賛否が分かれ,過去3回に提出にもかかわらず,衆議院の解散などの事情により長らく成立をみないままの状態とされていました。

 このため,政府は,国連犯罪防止条約(TOC条約)を実施するための国内法の罰則が整備されていないとし,その条約の批准に必要とされる受諾書の提出を留保したままの状態が続いていたわけです。

3 国際組織犯罪防止条約(TOC条約)はどのような罰則の整備を求めているのか?

 それでは,国連犯罪防止条約を実施するために整備が求められていた罰則とはどのようなものなのでしょうか?

 この条約は,次の条項を定め,その実施のため,締約国に「共謀罪」又は「参加罪」を処罰する罰則を整備するよう求めています(日本版は外務省HP(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_7a.pdf)参照)

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第2条 用語

(b) 「重大な犯罪」とは,長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう。

・・・

第5条 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化

1 締約国は,故意に行われた次の行為を犯罪とするため,必要な立法その他の措置をとる。

(a) 次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)

(ⅰ) 金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって,国内法上求められるときは,その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの

(ⅱ) 組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を認識しながら,次の活動に積極的に参加する個人の行為
a 組織的な犯罪集団の犯罪活動
b 組織的な犯罪集団のその他の活動(当該個人が,自己の参加が当該犯罪集団の目的の達成に寄与することを知っているときに限る。)

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 このうち,(ⅰ)が「共謀罪」,(ⅱ)が「参加罪」で,国際組織犯罪防止条約5条,1,(a)は,少なくとも,そのどちらか一方を処罰する罰則を整備するよう求めているわけです。

 (ⅰ)の「共謀罪」は,一定の犯罪を行うことを共謀することを,(ⅱ)の「参加罪」は,犯罪を行う団体の活動に参加することを,それぞれ処罰するものですが,(ⅱ)の「参加罪」は,参加する行為が犯罪でなくても,その者に犯罪を行う意思がなくても,一定の団体の活動に参加すること自体で処罰することができるようにするものですから,我が国の今までの刑罰法規の体系の傾向からすれば,処罰範囲が広すぎると言わざるをえないように思われます。

 そのため,選択するとすれば,(ⅰ)の「共謀罪」ということになったのだろうと想像されます。

 条約の批准のための技術として,条約の一部の規定だけ適用を受けることを留保するという選択枝も採れなくもないのでしょうが,国家間で連携してテロ集団に対する犯罪捜査を行うため,例えば,国境を越えて証拠の提供などをしようとする場合には,国際法上,原則として,その両国ともに,捜査しようとする犯罪を処罰することとしているという要件(「双罰性」)をクリアしなければならないものとされているため,国際社会において,テロ対策が強く叫ばれる昨今,その選択肢は採り難いように思われます。

 それ故,国際組織犯罪防止条約第5条,1,(a),(ⅰ)の「共謀罪」を処罰する立法を行うという方向で法案の提出を行うことは,少なくとも,この条約の批准という意味では,自然の流れといえるでしょう。

 それでは,政府は,これをどう立法化していくこととしたのでしょうか?

 次回からは,実際に,この法案の条文をみていくことにしましょう。

(続)

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